カネカの騒動から見る、男性の育児休暇義務化より先にやることがあるのでは?という話

働き方について

先日こんなニュースを目にしたのですが、

「いや、男性の育児休暇を企業に対して義務と化す前にやることあるんじゃないかな…」

という違和感が真っ先に脳裏をよぎりました。

折しも株式会社カネカについて、育児休暇から復帰直後の男性社員に転勤辞令を発令したこととその後の対応内容に関する騒動が起きたばっかりなので、

その株式会社カネカの騒動から私が考えた

「男性の育児休暇取得義務化」

よりも先に見直してほしいことのひとつである「転勤辞令」について、書いてみようと思います。

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男性の育児休暇取得に向けて自民党で議員連盟が発足

2019年6月5日、自民党の有志の議員らによって、男性の育児休暇取得を義務付ける動き、法制化に向けての議員連盟が立ち上げられました。

現在の育児介護休業法では、原則としては子どもが満1歳になるまで「男女どちらも育児休暇を取得できる」となっていますが、

「男性は取りたくても取れない」

雰囲気はまだまだ根強く、難色を示す職場や企業はまだまだ多いです。

そんな企業に対して、育休を取得したい男性の権利を守るための今回の議員連盟の発足、という流れのようですが……

私個人としては「義務化まではしなくていいんじゃないの?」と感じています。

というのも、家事や育児の負担が女性に偏っていることに関してフォーカスするなら、もっと考えるべきことはたくさんあるだろうと思うからです。

ただ、現状育児休暇を取得したい男性が、その機会が得られにくいと感じていたり、

国際基督教大の斎藤潤客員教授(経済学)は賛成派。「女性は出産・育休でブランクが生じる可能性があるから、採用や配属などで不利益な扱いを受けてきた。男女ともに育休を義務化すれば男女が平等に扱われるようになる」と期待する。

引用元:男性の育休、取得義務化ってどうなの 専門家の意見は

という側面などから、
「望む環境を実現するためにはある程度強制力を持たせた法の整備は必要」
という向きもあるのは、残念ながら否定できないとも感じているので、

こうした法の整備に向けた動きによって前向きな結果が得られるのだとしたら、それは望ましいことかなと感じています。

ただ、やっぱり待機児童をゼロにするとか、平日もゆっくり子どもと会話ができるような働き方改革を進めるとか、子どもの急な病気で早退するのはお母さんだけではなくお父さんだって、であったりとか、

お母さんだけではなくお父さんも家事や育児への参加を、というのであれば、やはり育児休暇よりも先にもっと身近ですぐにできそうなところから対策を練っていく必要があるのではないか?

とついつい考えてしまいます。

そして、その家事育児の周辺環境を整える施策として、個人的にぜひ対応を急いでほしいと思うのが

「望まない転勤を無くすこと」です。

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育児休暇を取得したら転勤を命じられた上に拒否したら解雇?株式会社カネカの騒動

自民党の有志議員によって、男性の育児休暇取得義務化に向けた議員連盟が発足したのと時を前後して、株式会社カネカの元社員の奥さんの訴えによって、

「新居を購入し、子どもの保育園入園も決まった40代の夫が、育休明けに転勤の内示を受けて断った結果、有休消化もできずに退職を余儀なくされた」

という事例が明るみに出てしまいました。

株式会社カネカ側はこの騒動を受けて調査委員会を発足し、対応に違法性がなかったことや、該当の社員との認識の違いがあったことなどを発表していますが……

旦那さんご本人の病気や怪我などによる休職ではないのだし、育休中でも意思疎通をはかることはできたのでは?と感じてしまうのと、

初手で「我が社と断定できる書き込みではないのですぐには回答できない」(最初のツイートでは社名を明記していなかった)と言ってしまったり、

「公式ホームページリニューアルに伴ってワークライフバランスに関して記載しているページが変更になった」

のだとしても、誤解を受けるような結果となってしまったならやり方をマズったよね、とも思いますし、

何より公式声明の中で「有休消化を認めなかった」という部分に関して一切触れていないのも問題だな、と。

業務上必要が生じたとあらば確かに転勤辞令を出すこと自体は違法ではないのかもしれませんが、

そうであるならばこそなおさら、トラブル対応の失敗がより炎上の火を大きくしてしまったというのがカネカとしては残念な点でしょう。

しかし、そもそも「個人の事情に配慮しない」転勤辞令もまかり通ってしまうのは、もっと問題化されても良いのでは?と思うのです。

それは、私自身がいわゆる「転勤族」家庭に育ち、そうした中でメリットよりもデメリットの方が多かったと感じ、

「自分の人生において二度と転勤と関わりたくない」

と強く思っているからかもしれません。

我が家の転勤のあゆみ

『10歳の頃、あるいはワールドワイドかもしれない話』という記事でも少し触れましたが、

私は10歳の頃まで幼稚園2箇所、小学校3箇所という転勤生活に伴う転校を余儀なくされてきました。

その中には外国も含まれますが、なんとその渡米の際はマイホームを買って約1年後という状態。

この騒動が起きた時、ツイッター上でも、「新居を購入して間も無く」「子どもが生まれて間も無く」転勤辞令が発動された、という、

ご自身だけではなく身近な人の例を含めた声をよく目にしたところを見ると、けして特殊な事例ではなかったのではないかと思います。

ちなみにそのマイホームは1年と住まずに私たち家族が引っ越してしまったので、以降は他の方に貸し出され、

結局そのマイホームがある地(西日本)に戻らないことがわかったために最終的には売却したとのこと。

ローンなど、そのあたりをどうしたのか、そういった事情は家族といえ聞けていませんが、

若干おぼろげな記憶ではありますが、そのマイホームはマンションのひと部屋でありながら歴代住んできた中では広くて住み心地も良かったなと感じているので、

とてももったいないな、という気持ちです。

ちなみに父は私が高校に入る前後で再度の転勤を言い渡されたのですが、この時は母も娘たちもついていかないことを決めたので、以降長きに渡って父は単身赴任することとなりました。

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望む家庭の形を壊すかもしれない転勤という制度

共働き世帯の増加という実情と合っていない

まず、配偶者に転勤辞令が出て、断れない状況に陥った時、もう一方は究極的には「ついていく」「ついていかない」の選択肢をまず考えると思います。

ではここで、そのどちらを選択するかを考える上でひとつ重要な要素となりそうな、専業主婦世帯と共働き世帯の推移を見てみましょう。

引用元:専業主婦世帯と共働き世帯|独立行政法人 労働政策研究・研修機構

多くの場合、転勤辞令が出た旦那さんに対して、奥さんがついていくか否かを考えることになると思いますが、

現代日本では圧倒的に共働き世帯の方が多く、「ついていく」という選択をした場合、奥さんの方が仕事を辞めざるを得ない状況になるでしょう。

転勤は発令から着任まであまり待ってもらえないケースも多く
(カネカの問題でもひと月と待ってもらえない状況だった)
また、数年単位と短いスパンでの引越しを伴う異動、というのも、転勤のある職種では稀ではありません。

なので、ついていく側が仕事を一度辞めてしまった場合、特に正社員として赴任先で再就職するのは難しくなってくるでしょう。

元々正社員同士で、ダブルインカムで生計を立てていた家庭にとっては収入源は免れられず、生活が苦しくなることを予想するのも難しいことではありません。

男性の育児休暇取得義務化に向けた議員連盟の中で、

国際基督教大の斎藤潤客員教授(経済学)は賛成派。「女性は出産・育休でブランクが生じる可能性があるから、採用や配属などで不利益な扱いを受けてきた。男女ともに育休を義務化すれば男女が平等に扱われるようになる」と期待する。

引用元:男性の育休、取得義務化ってどうなの 専門家の意見は

という意見もありましたが、転勤する旦那さんについていく奥さんが職を辞するケースについても、もっと見直されてもいいのではないかと強く思います。

また、職などの都合により転勤辞令の出た配偶者が単身赴任となった場合でも、
(大手の優良企業であれば赴任に際して何かしらの手当てが出るケースがほとんどだとは思いますが)

生活拠点の分断により、同一世帯で暮らしている時よりも生活費がかかることが想定されますし、

お子さんがいらっしゃる家庭では、単身赴任した側の人が育児に参加できる機会というのはぐっと減ってしまいます。

そもそも「ついていかない」という選択ができないケースも

「幼馴染という存在が欲しかった」

といって両親を困らせてしまったことがあったのですが。

やはり自分自身で生計を立て(仕送りレベルの援助の有る無しはさておき)、転勤を課された旦那さんや奥さん、ないし保護者なしで別拠点で暮らすことのできない配偶者・親子の場合は、

どうしても「ついていく」という選択肢しか残されないという事態になってしまうでしょう。

縁もゆかりもない土地で、しかも数年後には失われるかあるいは薄れていくかもしれないとどこかでわかっていながら新しい人間関係を構築する。

不慮の病気や事故、何かあった時に頼れる家族や親戚、友人などの存在と遠く離される可能性が高い。

経済的な事由だけではなく、そうした精神的な拠り所といった部分についても、デメリットが生じる可能性は十分にあるわけです。

また、いつまでもどこか余所者で、根無し草な生活。

それでも大丈夫、という人ももちろんいるでしょう。

あるいは自分で自身のキャリアや人生のために新天地に赴くことを選択したのならまだ、自分に合わなかったのだとしても、ひとつの経験として消化できたのかもしれません。

けれど私には耐えられなかった。

私が新卒の就職活動からこちら、「絶対に転勤という2文字とは関係を断つ」という信念のもとに動いていたのは、まさに、「ついていかない」という選択肢を持てなかった幼少期の経験が理由でした。

個人的には転勤族生活によりにより語学の面でのアドバンテージを受けた点は否めないですが、それも学生時代のテストでちょっと有利だったくらいで、

むしろ「英語関連しか資格欄に書くことがなかったのに全国・海外転勤が見込まれる企業であっても地域限定色しか受けなかった」というのは、就活中の時には若干マイナスに働いたのではないかというジレンマもあったりしました。

まぁ家にが言いたいのかと言いますと、

「転勤辞令とはそれが発令された当事者だけではなく、その家族の生活をも巻き込むものである」

ということをもっと「重く」捉える風潮が浸透すればいいな、と改めて願う次第です。

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カネカの騒動と男性の育児休暇義務化への動きに関するまとめ

最後に、ここで冒頭で少し触れたカネカの公式声明の中にあった
「我が社の対応(転勤辞令の発令やその後の対応)は適切であった(違法性はない)」
という点についてもう少し触れようと思います。

基本的に正社員として雇用され、「業務上必要とされる場合転勤を命じることもある」という就業規則がある企業であれば、転勤辞令そのものには違法性はありません。

よほどその転勤辞令が会社側の「権利の濫用」であると認められない限りにおいては、です。

そして、過去に「個人の事情に配慮していない!」と裁判で戦った方の多くは、残念ながら負けてしまっています。

そんな過去の判例に関して、「ヒデヨシさん(@cook_hideyoshi)」という方が以下の記事で詳しくまとめてくださっているので、ぜひ参考にしてみてください。

さて、だいぶ記事タイトルの内容から脱線してしまった向きもあるように見えると思いますが、

今回の「男性の育児休暇義務化」への動きははいい面も多いけれど、

そもそも株式会社カネカの騒動からも見えるように、

「母親だけではなく両親が共に協力して子を養育するという権利」

を守るために、これまでの慣習にとらわれず、個々の事情や世の流れ(「一般的」とされてきた家庭環境がすでに「少数派になりつつある」ということ)を踏まえ、

より現代の家族の形に寄り添った環境が整うような動きになっていくと良いなと考えています。

特にジョブ・ローテーションの一環として日本の大手企業では多く採用されている転勤に関して取り上げ、つい熱く語ってしまったのは、

「母親だけではなく両親が共に協力して子を養育するという権利」

をまず優先的に見直した方がいい
(もっというとできる限り撤廃した方がいい)
制度だと個人的に考えているためです。

自分自身が転勤族として生まれ育ってきた中での様々思いもあってつい熱く語ってしまいましたが、今回はこの辺りで。

この記事を書いた人:藤代あかり(@akari_fujishiro)