一条ゆかりさんの作品と聞くと、『有閑倶楽部』に代表される軽快さや華やかさを思い浮かべる人も多いかもしれません。
でも、そのイメージだけで手に取ると、少し構えてしまう作品があります。
『砂の城』は、まさにそんな一冊。
静かだけれど、感情の密度が高く、読み手の内側にじわっと残るタイプの漫画です。
今回は、この『砂の城』について紹介していきたいと思います。
漫画『砂の城』概要
漫画『砂の城』は1977年7月号〜1979年7月号および1980年9月号〜1981年11号の『りぼん』で連載されていた一条ゆかりさんの漫画です。
あらすじは以下の通り。
富豪ローム家の一人娘として生まれたナタリー。兄妹のように育てられたフランシスと恋仲になり結婚を誓い合うが反対され、二人で海に身を投げ別れ別れに…。数年後、記憶を失い、結婚して子供もいるフランシスと再会するが、彼は事故で死に、妻も後を追う。残された子供にフランシスと名づけ、ひきとったナタリーは、童話作家として新しい生活を始めるのだった。
砂の城 1/一条ゆかり|集英社
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漫画『砂の城』のレビュー・感想
一条ゆかり作品と聞いて、まず『有閑倶楽部』を思い浮かべる人は少なくないんじゃないかと思います。
華やかで、テンポがよくて、少し毒がありつつも基本は軽快。個性的なキャラクターたちが事件を解決しながら、どこか余裕のある世界を楽しませてくれる作品ですよね。
その感覚のまま『砂の城』を手に取ると、正直かなり面食らうと思います。
同じ作者とは思えないほど、空気が重い。
笑いで緩和される余地がほとんどなく、感情の振り切れ方がまったく違うんです。
『有閑倶楽部』の登場人物たちは、どんなトラブルに巻き込まれても、どこか「戻ってこられる場所」を持っています。
彼らは傷ついても、破滅までは行かない。世界に対する信頼が、作品全体に残っているんですよね。
一方、『砂の城』の人物たちは、感情を一度踏み外すと簡単に引き返せません。
愛や嫉妬に飲み込まれ、選択を重ねるほどに状況が悪化していく。
「大丈夫、そのうち笑える」なんて保証は、最初から用意されていない世界です。
恋愛の描き方も対照的です。
『有閑倶楽部』では、恋はスパイスのひとつで、キャラクター同士の掛け合いを楽しむための装置として機能している感じです。
一方『砂の城』では、恋愛は人生そのもの。生き方を歪め、誇りを削り、人格すら書き換えてしまう力として描かれます。
同じ「濃いキャラクター」でも、その意味合いがまったく違うんですよね。
『有閑倶楽部』の濃さはエンタメとしての濃さ。
『砂の城』の濃さは、人の感情を直視させるための濃さなのではないかと感じます。
そして何より違うのは、読後感です。
『有閑倶楽部』を読み終えたあとには楽しさが残る反面、『砂の城』は、読み終わったあともしばらく感情が整理できません。
「これはフィクションだから」と距離を取るのが難しく、心のどこかをえぐられた感じが残るんですよね。
もしあなたが「一条ゆかり=有閑倶楽部の人」という認識で止まっているなら、『砂の城』はかなり衝撃的な一冊になると思います。
同じ作家が、こんなにも救いの少ない、情念の塊のような物語を描いていたのかと驚かされることでしょう。
軽やかな一条ゆかり作品を知っているからこそ、重たい一条ゆかり作品が刺さる。
『砂の城』は、その振れ幅の大きさを実感させられる作品だと思います。
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漫画『砂の城』まとめ
というわけで、漫画『砂の城』を紹介してきました。
よかったらぜひこの機会に読んでみてください。
この記事を書いた人:藤代あかり(@akarifujishiro)



