往年の名作、というのはいつ読み返しても面白く、また読み返す度に自分の年齢が上がっていることもあり、過去の自分が注目したり抱かなかった感想に出会えたりと、スルメのように何度も噛みしめられる、そんな味わい深い楽しみ方があるように思います。
そうして自分がたまに読み返す漫画作品ですが、多くが白泉社から出ているものであるというのは、私の実家に白泉社から出ているものが多いから、というのが背景にあったりします。
私の血と骨と肉は白泉社によって大部分ができている、といっても過言ではないかもしれません(多少誇張表現あり)
さて、今回ですがそんな数ある白泉社の名作の中でも、シベリアン・ハスキーブームを巻き起こした『動物のお医者さん』という作品を紹介していきたいと思います。
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『動物のお医者さん』概要
『動物のお医者さん』基本情報
『動物のお医者さん』は、1987年〜1993年にかけて白泉社の「花とゆめ」という雑誌で連載された日本の少女漫画です。
主人公の飼い犬である”チョビ”の犬種であるシベリアン・ハスキーがブームとなったり、同作品内で登場する”H大学”のモデルである北海道大学獣医学部の志望者数が跳ね上がったりと、同作の影響でいろんな社会現象が引き起こされることともなりました。
また、2003年にはテレビ朝日系列で吉沢悠さんを主人公としたドラマ化もされています。
かなり原作に忠実であることから、実写化の成功例として代表的な作品ともいえるでしょう。
『動物のお医者さん』あらすじ
導入部では主人公・西根公輝(にしねまさき/愛称:ハムテル)がシベリアン・ハスキーの”チョビ”を、H大学獣医学部の漆原教授から押し付けられた(語弊ではない)高校3年次のエピソードが描かれており、
その後は主人公の獣医学部3年〜6年までと、大学院博士課程2年目までの約6年間の出来事が描かれています。
そして、作中で多く登場する動物たちはかなり写実的に描かれているほか、吹き出しなしの明朝体というフォントで動物たちの心情が描かれている点も特徴的なのではないでしょうか。
なお、作中の時間経過は連載中の実時間と一致していますが、基本的に1話完結型なので、1巻から読み進めていく分には、隙間時間を使ってちょっとずつ読み進めていくこともしやすい漫画だと思います。
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『動物のお医者さん』のレビュー・感想
この漫画は、主人公ハムテルが獣医師を目指していく過程を描くある種の成長譚ではあるのですが、
『動物のお医者さん』というタイトルからして、読む前は動物の生き死にが関わったりしてきそう、というイメージが抱かれそうかな、と思います。
また、そうした話を読むことが苦手な人ほど敬遠しちゃいがちなのかな、ということは想像に難くないのですが、これに関しては始めに声を大にして言っておきたい。
メインで登場する動物たちは皆んな元気だし生き死にに関わるような重たい話もないから安心して読んで欲しい!!
亡くなるような描写があるとしたら実験室で培養されている細菌くらいで、手術のために毛刈りされる描写や牛の内臓を触診すべくお尻の穴に手を突っ込む、牛の出産といった内容が描かれることはあるものの、開腹手術などの生々しい描写等もありません。
また、そもそも主人公のハムテルが獣医師を目指すのは、チョビを始めとした自宅で同居する動物たちの通院経験から、
「獣医になれば飼っている動物たちの治療費が浮く」
と感じたから。そうして彼はたまたま通学負担も少ないH大学獣医学部病院学講座を進路として選ぶのです。
この時点で、動物との触れ合いによる感動ストーリーといったエピソードが出て来ないことが感じ取れるのではないでしょうか。
実際に、動物が病気になって……という描写もさることながら、動物との触れ合いによって涙するエピソード、みたいなものも全編通してないもいってもいいでしょう。
同じく大学の獣医学部を描いた作品に、日本テレビ系列で2001年に放送された『向井荒太の動物日記 〜愛犬ロシナンテの災難〜』という作品がありましたが、
飼い主と動物との絆の深まりや獣医学部の学生たちの青春、といったキーワードに惹かれる方には、こちらのドラマの方がオススメですかね。
さて、そんな基本的に冷静沈着、かつ無表情&マイペースな主人公・ハムテルですが、周辺人物・動物たちもかなり個性的です。
まずは主人公・ハムテル宅で飼われている動物たちの存在は無視できませんね。
温厚で我慢強い、というより、やや要領の悪さも感じられる、怒るタイミングを逃しがちなチョビに、
モノローグがなぜか関西弁、狩りに情熱を注ぐ近隣の女ボスである三毛猫のミケ。
そして、老いてもなお喧嘩好きで「西根家最強の生物」の異名を持つニワトリのヒヨちゃん。
主人公宅で飼われていることもあり、数々のエピソードが描かれているので、彼らの話だけでも十分に楽しめます。
そして、次はハムテルの周辺人物たち。
まず紹介しておくべきはハムテルの友人で共に獣医学部病院学講座に進む、高校時代からの親友である二階堂でしょう。彼はハムテルとは対照的に感情表現が豊かなのですが、
書かれている文字に触れられないほどの極度の「ネズミ」嫌い。そんな二階堂とネズミとの数々の戦いのエピソードはどれも必見です。
ドラマ化の際は要潤さんが演じられているんですが、美人に弱く、後述の菱沼や見ず知らずの女性を口説くといった原作にはない設定が加わるものの、ハムテルとは対照的な、年相応の青年らしさが出ていて、とても良かったなぁ、という印象です。
そして忘れずにいたいのは、ハムテルとチョビとを引き合わせた、のちにハムテルが進む獣医学部病院学講座の漆原教授。
初登場からアフリカ文化の扮装をしていたり、研究室にアフリカン・アート作品が溢れていたりと大のアフリカファンであることもさることながら、
「破壊の神様みたいな人」「教授が困ると周囲はその10倍困る」とも言われるトラブルメーカーでもあり、その破天荒ぶりは数々の事件を引き起こす形になります。もちろん、れっきとした教授なので、時には誰も思い浮かばないような意外な方法を取ったとしても、締めるところは締めるんですけどね。
また、漆原教授とは学生の頃からの付き合いがある、英国紳士然とした上品さと厳格さ・几帳面さを持つ菅原教授との対比も面白いです。
ドラマ版では漆原教授を江守徹さん、菅原教授を草刈正雄さんがそれぞれ演じられていますが、江守さんのいい意味での「怪演ぶり」と草刈さんの上品さがそれぞれとてもハマってましたね。
そして、漆原教授並に特徴的な人物といえば、院生の菱沼聖子(ひしぬませいこ)。体温計に表示されないほどの低体温と、超がつくほどの低血圧ぶり。そして、感染症など病気に対する抵抗力がものすごく強い反面、痛覚が異常に鈍いために盲腸などの症状に気づきにくい、といった特異体質エピソードが数多く登場します。
また、菱沼自身は動物好きなのですが、独特な構い方をしてしまうせいでことごとく振られてしまうというさまざまなエピソードも印象的です。
ちなみに、本作では登場人物たちの間での恋愛関係や、それに付随するイザコザなどの描写も特にありません。
特に女性陣の中でも菱沼はかなり美人で、実写化の際には和久井映見さんが演じられたくらいなんですけどね。
なので、ザ・恋愛漫画に対して何となく読み疲れ的なものを感じている、ほのぼのとした日常漫画やコメディタッチといったものを読みたいんだ、という人にこそぜひ手に取ってみてほしいオススメの作品です。
漫画『動物のお医者さん』まとめ
というわけで、漫画『動物のお医者さん』を紹介してきました。
ちなみに『動物のお医者さん』ですが、実写化されたドラマ版についてはAmazonプライム会員はプライム・ビデオで鑑賞することができます。
よかったらぜひこの機会に観てみてください。
この記事を書いた人:藤代あかり(@akari_fujishiro)