世の中には何万という映画がありますが、時々出会うのが、
ラストシーンのその先を、視聴者の解釈・想像に委ねる
というタイプの作品。
明確な答えが用意されていないために好き嫌いが分かれるところでもあると思いますが、私は結構好きです(笑)
というわけで、このようなタイプの作品でも特にオススメの作品として、今回は『ゆれる』を紹介していきたいと思います。
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映画『ゆれる』概要
『ゆれる』基本情報
『ゆれる』は2006年に公開された、西川美和監督による日本の映画作品です。
「あの橋を渡るまでは、兄弟でした」
というキャッチコピーの元、幼馴染の死をきっかけにバランスを崩していく兄弟の姿を描いたヒューマンミステリーとなっています。
なお、兄の稔役は香川照之さん、弟の猛役はオダギリジョーさん、幼馴染の智恵子役は真木よう子さんがそれぞれ演じています。
『ゆれる』あらすじ
東京で写真家として活躍している早川猛(はやかわたける/オダギリジョーさん)は、母親の法事のため、久しぶりに故郷に帰ります。
実家のガソリンスタンドは兄の早川稔(はやかわみのる/香川照之さん)が切り盛りしており、幼馴染の川端智恵子(かわばたちえこ/真木よう子さん)が共に働いていました。
ある夜、猛は智恵子を誘ってドライブに出かけます。お互いに色んな話をする中で猛は智恵子からの好意を感じ、最終的には智恵子の家に上がり込んで一夜限りの関係を結びます。
昔を懐かしむ智恵子に対して、猛はそれ以上は必要ないと言わんばかりにそそくさと智恵子の家を後にしたのですが、帰宅すると稔は起きて家事をしていました。
稔は彼女がお酒を飲めないことを知っていながら、「智恵子と居酒屋で飲んでいた」という猛の嘘にうまく合わせます。
そうして翌日、稔と猛、そして智恵子は3人で渓谷へと遊びに行きます。
はしゃぐ兄の稔。智恵子との関係を悟られたくないがために1人写真撮影に没頭する猛。そんな猛を追いかけ、渓流にかかる高い吊橋を渡る智恵子。
危ないからと彼女を制しようとした稔と智恵子は口論となり、やがて智恵子は橋の下へと落下してしまいます。
落下した時の様子を、猛は離れた場所から見ていました。しかし、2人の会話の内容までは、渓流の激しい音に紛れて聞こえていません。
到着した警察に自分は何も見ていないと証言したり、事件の晩に兄弟の父親が稔を叱責するのを庇ったり、翌日も稔が警察に足を運ぶのに付き添ったりなどしますが、
後日、結局稔は智恵子を橋の上から突き落としたという自白をし、逮捕されてしまいます。
そんな稔に対し、猛は叔父の弁護士に相談に行ったり、拘留中の稔と裁判の切り抜け方について一緒に考えようとするのですが、稔自身は気乗りせず。
このまま有罪になっても構わない、と猛に漏らすような状態です。
裁判が始まると、稔は最初は起訴状に書かれている自身の容疑について否認しました。
稔の弁護に立った叔父の早川弁護士も、稔が智恵子を助けようと手を出したものの落下するのを捕まえることができなかったのだと証言します。
しかし、稔を有罪にすべく彼を問い詰める、丸尾検査官。
そして、稔は自身が智恵子に対して好意を抱いていたこと、彼女を助けようとして手を差し出した時に「触らないで!」と跳ね除けられ、惨めに感じたことなどを証言させられます。
丸尾検査官はさらに、検死の結果智恵子が前日に他の異性と性交渉をしていた事が判明したと告げます。稔はその件については知らなかった、と回答し、傍聴席に対して頭を下げます。
しかし猛の脳裏を、少し前に父親から聞いた、智恵子が体質的にお酒が飲めないという事実がよぎります。
事件前夜のあの夜、自分が口にした「智恵子と飲んで帰った」という嘘を稔は見抜いていて、彼女との間にあった関係にも気づいていたんじゃないかと猛は考えます。
再度面会に行った猛は、橋の上で起きた出来事の核心部分を改めて問いかけました。
そんな弟に対し、稔は逆に問い返します
「お前は俺の無実を本当に事実だと思っているか?」
そして、自分が知っている猛は、始めから人の言うことを疑い、最後まで信じない、そんな人間だ、とさらに言い募ります。
激昂した猛は、次の裁判で証言台に立った際、本当は自分のいた場所から2人のことが見えていたこと、そして、兄が智恵子を突き落とすのを見たということを証言してしまいます。
それから7年の月日が経ち、稔が出所してくる時が訪れました。
もう縁が切れたものと考えていた猛には、兄を迎えに行くつもりはありませんでした。
しかし、猛は実家の片付けをしている際、母が残していた古い8ミリテープを発見します。
そこには事件の起きた渓流に、幼い頃に父と母と兄と遊びに行った日の姿が映し出されていました。
猛の手を握りあげ、助けようとする稔の姿も。
そこで猛は、裁判の時に早川弁護士が最初に弁護したように、本当は稔は智恵子を助けようとしたのだということに気づき、その証言を覆して兄を有罪にしてしまった自分に対する自責の念で激しく泣き崩れました。
もう遅すぎるかもしれない。けれど、もし許されるなら、兄との絆を修復したい。
駆けつけた刑務所で兄がすでに出てしまった後だと告げられた猛は途方に暮れますが、帰り道、兄の背中を見つけて必死に呼びかけます。
「兄ちゃん!家に帰ろうよ!」
振り返った兄の稔は微笑んでいました。
やがて稔のいた場所に1台のバスが止まり、そして走り去っていきます。
稔がバスを見送ったのか、あるいは乗り込んでいってしまったのか。
その描写は描かれないまま、物語は幕を閉じます。
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『ゆれる』のレビュー・感想
この映画は終始弟・猛の視点を中心に描かれているので、兄・稔の心中については、視聴者に判断が委ねられる場面が多くなっています。
ただ1人の目撃者として証言台に立った猛が、自分が犯人であると口にした時も。出所後、一緒に家に帰ろうと弟から声をかけられた時も。
稔は微笑んでいましたが、その心中が彼の口から語られることはありません。
ただ、稔は猛の、自分の思うままに生きる姿に憧れを抱いていました。
狭い街に幼馴染を死なせてしまったという罪を背負ったまま残ることからも、家業のガソリンスタンドで働きながら生涯を終えることからも、本当は逃れたかったのではないか。
そのためにこそ、事故ではなく罪として、智恵子の死を背負うことを決めたような、そんな稔の思いは示唆されます。
これまでの人生から自分を切り離すためには、唯一の目撃者である弟による証言が必要だった。
だからこそ、兄を無罪にしようと動く猛の心に揺さぶりをかけた。
その行動は同時に、自由に生きる猛への意趣返しという意味合いもあったのかもしれません。
そんな風に解釈することもできると思います。
こんな風に感じるのは私の邪推かもしれません。
それを確かめるためにも、自分がこの映画を見てどう解釈するのかを実感してみるためにも、この映画を観てほしい。
そういった意味でも、私はこの映画を視聴することをオススメします。
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映画『ゆれる』まとめ
というわけで、映画『ゆれる』を紹介してきました。
ちなみに『ゆれる』ですが、Amazonプライム会員はプライム・ビデオで鑑賞することができます。
よかったらぜひこの機会に観てみてください。
この記事を書いた人:藤代あかり(@akari_fujishiro)
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